イエナプラン教育とは?その特徴とメリット・注意点を解説

変化の激しいこれからの社会を生きるために、従来の日本の教育法が見直され、「生きる力」をはぐくむことが重要視されるようになりました。多様性を認め合い、自律性や自立心を高めることが求められる中、今回は個性を尊重しながら自律と共生を学ぶイエナプラン教育について説明します。

目次

イエナプラン教育法とは?

イエナプラン教育とは、異年齢で構成されたクラスで、子ども一人ひとりの個性を尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育です。

これは子どもが自ら考え行動することや、自分と他者の違いを認め、尊重し合いながら、互いに協力して学び合い育っていくことを目指す教育方法です。日本ではまだあまり知られていない教育法ですが、シュタイナー教育やモンテッソーリ教育などと並ぶ世界7大教育法の一つです。

このイエナプラン教育はどこでどのように始まり、発展していったのでしょうか。

ドイツで生まれオランダで発展

イエナプラン教育は、ドイツの教育学者ペーター・ペーターセンが考案したものです。ドイツで生まれたイエナプラン教育ですが、後にオランダを中心に発展を遂げ、現時点では、オランダの200校以上の小中学校がイエナプラン教育を取り入れています。

ユニセフが実施した「先進国における子どもの幸福度」調査によると、オランダの総合順位は1位となっています。これは、オランダの教育制度が子どもの幸福度に何かしらの影響を与えていると考えられており、その理由の一つとして、イエナプラン教育が注目を集めています。

イエナプラン教育の特徴

イエナプラン教育の特徴

子どもの自律と共生を学ぶイエナプラン教育ですが、具体的にはどのような取り組みがされているのでしょうか。ここでは大きく5つの特徴を紹介します。

  • 異年齢グループによる学級構成
  • 4つの基本活動
  • リビングルームのような教室作り
  • ワールドオリエンテーションの導入
  • 健常者と障がい者が共に学ぶ環境

それでは、これら5つの特徴について詳しく説明していきます。

異年齢グループによる学級構成

日本の幼稚園や小学校は同じ学齢の子どもたちが集まり「3歳児クラス」「1年生」といった学級構成とされていることが多いのですが、イエナプラン教育では学齢の違う子どもたちが同じグループになるよう構成されています。

このマルチエイジグループは通常、「4〜6歳児」、「6〜9歳児」、「9〜12歳児」の3つのグループに構成されており、年少・年中・年長の立場を毎年役割を交代しながら学ぶことで、社会に出た際のリーダーとフォロワーの関係、文化の継続と変革を学ぶことにもつながります。

また異年齢グループの中で過ごすことにより、違いを尊重することや、教え合い、助け合いが活発になるといったメリットもあります。

日本の幼稚園、保育園においても、これらの異年齢グループでの生活におけるメリットを考慮し、縦割り保育や異年齢保育を導入している園が増えてきています。

4つの基本活動

イエナプラン教育では、4つの基本活動をベースに学習を進めていきます。

4つの基本活動とは「対話・遊び・仕事(学習)・催し」となっており、これらをリズミックに循環するように時間割が企画されます。このリズミックとは、子どもたち自身が毎週時間割を考えるため、常に同じではない、リズムのある時間割になるということです。また、この4つの基本活動を循環的に行うために、時間割は教科別には作らず、リズミックな交替をもとにして作られます。これらの基本活動の具体的な内容についても説明していきます。

「対話」とは、1日の始まりと終わりにサークル(輪)になって対話を行うことです。グループ全員が円形に座り話し合うスタイルは、日本の教室の前に立って発言するスタイルとは異なり、緊張感なく安心して自分の意見をグループのメンバーに伝えることができるメリットがあります。「遊び」とは、身体を動かす、絵を描く、ダンスをするといった企画された遊びや自由遊びによって感情表現を豊かにするといった教育効果が得られます。

「仕事(学習)」とは、自律学習(子どもたちが自分で決定して時間割をつくる)と共同学習(学校から与えられる)の2通りの方法で学習を行うことです。異年齢のグループで過ごしているため、学習の進捗が違うことが当たり前の環境の中で、自然と互いを尊重し合い、教え合うことができるようになります。「催し」とは、週の始めや終わりの会、メンバーや先生の誕生日、年中行事などで行われるイベントです。イベントを通して、ポジティブ・ネガティブそれぞれの感情を共有することで仲間意識が育まれ、コミュニケーション能力も養われます。

リビングルームのような教室作り

イエナプラン教育では、教室を「リビングルーム」と呼び、家庭的な雰囲気の中で安心して自分らしく過ごすことができるよう工夫されています。黒板に向かって机が並べられている日本の教室とは違い、机や椅子の配置は、先生と子どもたちが一緒に考え、居心地の良い空間をつくっています。またグループディスカッションや対話が行いやすいように考慮して模様替えも行っています。グループディスカッションや対話の際には、緊張感なく自分の意見を発表することや、相手の意見を傾聴する力を養うことが大切になるため、円形に座り全員の顔が見える状態で行う「サークル対話」が行われています。このサークル対話を行いやすいように、教室の中の机や椅子などの家具は、子どもたちが動かしやすい軽い材質が使われています。

ワールドオリエンテーションの導入

イエナプラン教育の中核である大事な学習がワールドオリエンテーションです。ワールドオリエンテーションとは、科目の枠を超えた総合的な学習のことを指します。ワールドオリエンテーションではグループごとに子どもたちの内発的な問いに基づいて探求を行い、科学研究のプロセスを共に学んでいくため、ファミリーグループ活動とも呼ばれています。基本的にプロジェクト形式で行われ、観察や実験、文献やインタビュー調査などを通して教科の壁を越えた知識を身につけていきます。ワールドオリエンテーションで探求的に学習を進めていくためには、基礎学習(教科学習)で学んだことを活用する必要があります。また、ワールドオリエンテーションの中で生まれた問いを深めるために、基礎学習(教科学習)で知識を得ていくことが大切になります。このような探求学習(ワールドオリエンテーション)と基礎学習(教科学習)の循環により、「意味」のある学びとなっていきます。

健常者と障がい者が共に学ぶ環境

「全ての子どもが自分らしく成長する権利を持つこと」を大切にしているイエナプラン教育では、健常者と障がい者が共に学ぶ環境が当たり前となっています。一人ひとりの個性を認め合うことが自然と身につく環境で学習することを通して、多様性や助け合いの力を養います。そのためイエナプラン教育では特別支援学級の設置はなく、子どもたちの集団をできる限りありのままの社会の反映として捉えて構成することを重視しています。このように障がいの有無に関わらず、全ての子どもが共に学び合う仕組みを「インクルーシブ教育」といいます。

イエナプラン教育の20原則について

イエナプラン教育のコンセプトとして、「人間について」、「社会について」、「学校について」の3つの要素について記された「20の原則」があります。

人間について

  1. どんな人も、世界にたった一人しかいない人です。つまり、どの子どももどの大人も一人一人がほかの人や物によっては取り換えることのできない、かけがえのない価値を持っています。
  2. どの人も自分らしく成長していく権利を持っています。自分らしく成長する、というのは、次のようなことを前提にしています。つまり、誰からも影響を受けずに独立していること、自分自身で自分の頭を使ってものごとについて判断する気持ちを持てること、創造的な態度、人と人との関係について正しいものを求めようとする姿勢です。自分らしく成長して行く権利は、人種や国籍、性別、(同性愛であるとか異性愛であるなどの)その人が持っている性的な傾向、生れついた社会的な背景、宗教や信条、または、何らかの障害を持っているかどうかなどによって絶対に左右されるものであってはなりません。
  3. どの人も自分らしく成長するためには、次のようなものと、その人だけにしかない特別の関係を持っています。つまり、ほかの人々との関係、自然や文化について実際に感じたり触れたりすることのできるものとの関係、また、感じたり触れたりすることはできないけれども現実であると認めるものとの関係です。
  4. どの人も、いつも、その人だけに独特のひとまとまりの人格を持った人間として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。
  5. どの人も文化の担い手として、また、文化の改革者として受け入れられ、できる限りそれに応じて待遇され、話しかけられなければなりません。

社会について

  1. わたしたちはみな、それぞれの人がもっている、かけがえのない価値を尊重しあう社会を作っていかなくてはなりません。
  2. わたしたちはみな、それぞれの人の固有の性質(アイデンティティ)を伸ばすための場や、そのための刺激が与えられるような社会をつくっていかなくてはなりません。
  3. わたしたちはみな、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いやそれぞれの人が成長したり変化したりしていくことを、受け入れる社会をつくっていかなくてはなりません。
  4. わたしたちはみな、地球と世界とを大事にし、また、注意深く守っていく社会を作っていかなくてはなりません。
  5. わたしたちはみな、自然の恵みや文化の恵みを、未来に生きる人たちのために、責任を持って使うような社会を作っていかなくてはなりません。

学校について

  1. 学びの場(学校)とは、そこにかかわっている人たちすべてにとって、独立した、しかも共同して作る組織です。学びの場(学校)は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです。
  2. 学びの場(学校)で働く大人たちは、1から10までの原則を子どもたちの学びの出発点として仕事をします。
  3. 学びの場(学校)で教えられる教育の内容は、子どもたちが実際に生きている暮らしの世界と、(知識や感情を通じて得られる)経験の世界とから、そしてまた、<人々>と<社会>の発展にとって大切な手段であると考えられる、私たちの社会が持っている大切な文化の恵みの中から引き出されます。
  4. 学びの場(学校)では、教育活動は、教育学的によく考えられた道具を用いて、教育学的によく考えられた環境を用意したうえで行います。
  5. 学びの場(学校)では、教育活動は、対話・遊び・仕事(学習)・催しという4つの基本的な活動が、交互にリズミカルにあらわれるという形で行います。
  6. 学びの場(学校)では、子どもたちがお互いに学びあったり助け合ったりすることができるように、年齢や発達の程度の違いのある子どもたちを慎重に検討して組み合わせたグループを作ります。
  7. 学びの場(学校)では、子どもが一人でやれる遊びや学習と、グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習とがお互いに補いあうように交互に行われます。グループリーダー(担任教員)が指示したり指導したりする学習は、特に、レベルの向上を目的としています。一人でやる学習でも、グループリーダー(担任教員)から指示や指導を受けて行う学習でも、何よりも、子ども自身の学びへの意欲が重要な役割を果たします。
  8. 学びの場(学校)では、学習の基本である、経験すること、発見すること、探究することなどとともに、ワールドオリエンテーションという活動が中心的な位置を占めます。
  9. 学びの場(学校)では、子どもの行動や成績について評価をする時には、できるだけ、それぞれの子どもの成長の過程がどうであるかという観点から、また、それぞれの子ども自身と話し合いをするという形で行われます。
  10. 学びの場(学校)では、何かを変えたりより良いものにしたりする、というのは、常日頃からいつでも続けて行わなければならないことです。そのためには、実際にやってみるということと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度を持っていなくてはなりません。
20の原則 – 日本イエナプラン教育協会 –

イエナプラン教育のメリット

イエナプラン教育が子どもの豊かな人間性を育み、主体的に生きる力を養うことのできる教育法であることが分かっていただけたと思います。

ここからはイエナプラン教育の5つのメリットについて、具体的にご紹介します。

コミュニケーション能力の向上

コミュニケーション能力の向上

コミュニケーション能力の向上に必要なこととして、文部科学省のコミュニケーション教育推進会議では、

  1. 自分とは異なる他者を認識し、理解すること 
  2. 他者認識を通して自己の存在を見つめ、思考すること 
  3. 集団を形成し、他者との協調、協働が図られる活動を行うこと 
  4. 対話やディスカッション、身体表現等を活動に取り入れつつ正解の ない課題に取り組むこと

これらの要素で構成された機会や活動の場を学校教育の中に設定する必要があると記されています。

イエナプラン教育は異年齢でのインクルーシブ教育を行っているため、自然と多様な価値観に触れることができ、他者との違いを認め、尊重し合うことができますし、ディスカッションをする場面が多くあるので、コミュニケーション能力の向上が期待されます。

自己肯定感が育まれる

イエナプラン教育では、子ども一人ひとりの個性を尊重しています。そのため、他者と比較されて劣等感を感じるようなことがありません。障がいの有無に関係なく、異年齢グループで過ごすことで、同年代の子と比べて自分の方が劣っていると感じることがなく、皆、得意不得意がある中でお互いに助け合いながら成長していくので、自己肯定感が下がる心配もありません。また互いに教え合う中で、得意なことを他者に教えたり、年下の子に頼られたりすることで、人の役に立つ経験を積み重ね、自己肯定感が育まれていきます。

主体性・協調性が育まれる

イエナプラン教育では、子どもたちが時間割を考えて作ります。子どもたちは常に自ら考え、行動することを求められる環境で過ごすことにより、自然と主体性が育まれていきます。

また、異年齢でのインクルーシブ教育を受けることで、自分とは異なる個性を持った他者を理解し、認め合いながら活動を共にするため、協調性も育まれていきます。

リーダーシップ力の向上

イエナプラン教育では3つの年齢のグループからなるマルチエイジグループで構成されています。年少・年中・年長の立場を繰り返し経験しながら過ごしていくことで、年少者・年中者の気持ちを汲みリーダーシップを発揮することができるようになります。これは社会に出た際に、相手の立場を理解して行動するための準備でもあると考えられています。

問題解決能力の向上

イエナプラン教育では、子どもたち自身で課題と向き合い、問題を解決していく力を養っています。グループディスカッションの機会も多くあり、物事を多角的に見て、解決していく力が自然と養われていくことで、問題解決能力の向上も期待されます。

イエナプラン教育の注意点

イエナプラン教育が、子どもたちの人間性を豊かに育み、自分自身も他者も尊重しながら、主体的に学ぶことのできる理想的な教育法であることがお分かりいただけたと思います。しかしながら、イエナプラン教育にも注意点があります。今回は2つの注意点をお伝えします。

従来型教育カリキュラムとの違いがある

イエナプラン教育は、従来型の教育カリキュラムと異なる部分が多いです。

個人の能力や成績を集団内の他者と比較し、相対的な位置を明らかにする相対評価は実施されていません。そのため、お子様の相対的な学力を知りたい場合にはイエナプラン教育は適していないと考えられます。

また、イエナプラン教育を受けて育ったお子様が一般の学校に進学・転校される場合、受験に必要な知識の学習が行われていないため、受験で不利になったり、クラス編成や授業の進め方など異なる部分が多いことで、転校先の学校に上手く馴染めなかったりする心配もあります。

さらに、お子様の性格によっては、対話しながら他者と協力し学習を進めるグループ活動の時間を多く設けているイエナプラン教育は、ストレスに感じてしまう可能性もあるでしょう。

日本では実践例が少ない

日本では実践例が少ない

大きなデメリットとして、日本では実践例が非常に少ないことがあげられます。

教育基本法に基づく「小学校」や「中学校」に該当する一条校として認められているイエナプランスクールとして認定された学校は、小学校では2校、中学校では1校しかありません。

公立の小中学校で、イエナプラン教育を取り入れる動きも少しずつ見られるようになってきましたが、実践例は少ないです。

そのため、実際にお子様にイエナプラン教育を受けさせたいとお考えの場合、近くにイエナプラン教育を受けられる学校がなく、困ってしまうケースも少なくありません。

まとめ

イエナプラン教育は、これからの多様性が必要とされている時代を生き抜く子どもたちにとって必要な「生きる力」を身につけさせることに最適な教育方法です。

様々な個性を尊重し、他者と共に学び合う環境は、自分も相手も大切にしながら、問題解決に向けて協力する力が養われていくため、社会で活躍する人材に成長することができるでしょう。

子どもの幸福度が世界一位のオランダで注目されている教育法であることにも納得がいくのではないでしょうか。子どもたちの自己肯定感を高めながら、主体的に他者とのコミュニケーションを楽しみながら学び、成長していくことのできる環境を提供できるよう、イエナプラン教育を一部でも取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか

イエナプラン教育でも重要なポイント「自己肯定感」をタブレット教育で

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