発達障害とワーキングメモリ:子どもの記憶力向上を目指すために知っておくべきこと
近年、「発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。
文部科学省の調査から、近年、通級による指導を受けている児童生徒の中で、何らかの発達障害があると診断される生徒の数が増加していることが分かっています。具体的には、
- ADHD(注意欠如・多動性障害)は約6倍(平成21年:4,013人、令和1年:24,709人)
- LD(学習障害)は約5倍(平成21年:4,726人、令和1年:22,389人)
- ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)は約3倍(平成21年:8,064人、令和1年:25,635人)
となります。発達障害の特性により、生きづらさを抱えている方は多いです。発達障害のあるお子様は、「忘れ物やなくしものが多い」「複数の指示を覚えられない」「読み書きや計算が苦手」など家庭や園・学校で困り事を抱えています。
そして、これらの困り事には記憶力が関係しています。お子様の困り事を少しでも軽減できるよう、記憶力の向上を目指すために知っておくべきことについて説明します。
発達障害と記憶力の関係
発達障害と記憶力にはどのような関係があるのでしょうか。記憶はその保持時間により、主に「長期記憶」と「短期記憶」の二つに分類されます。
「長期記憶」は一度定着すると容量の制限なく、永続的に忘れることのない記憶であり、「短期記憶」は、短い時間(数秒から数分)のみ、一時的に保持される記憶のことを言います。
そして、一時的に保持した記憶(短期記憶)を取捨選択し、処理する能力が「ワーキングメモリ」です。この「ワーキングメモリ」という作業記憶は、脳のメモ帳とも呼ばれており、発達障害と関係があると考えられています。
では、なぜ発達障害と記憶力が関係しているのでしょうか。それは、ワーキングメモリが低いことで起きる日常生活での様々な困り事が、発達障害のあるお子様の困り事と共通しているからです。東北福祉大学研究紀要に掲載されている 発達障害のある児童のワーキングメモリは改善できるのか という論文には、「様々な研究からワーキングメモリの問題は発達障害の主な障害の一つであることが明らかになった」と記述されています。
ADHD・LDの方はなぜ記憶することが苦手なのか
発達障害のあるお子様は、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し、同時に処理する能力(ワーキングメモリ)が低い傾向にあります。そのため、先生から複数の指示を受けた場合に、指示内容を忘れてしまったり、上手く理解できなかったりすることで、指示に従えないことが起きるのです。また、持ち物や準備物が多い時などは、翌日必要な物をランドセルに入れ忘れて、先生に叱られてしまうといった、日常生活での困り事が多くなってしまいます。
このような困り事が続く場合、記憶することが苦手な忘れっぽい子という印象を持たれてしまうでしょう。このような印象を持たれてしまうと、周りから評価されていないと感じることが多くなり、自己肯定感が低くなってしまう可能性があります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(学習障害)の特性について知ることで、誤解をされたり、適切な支援を受けられないことがないよう、改善へつなげていきましょう。
発達障害の中でも、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)のあるお子様は、興味のあるものごとに対する集中力がとても高く、長期記憶が非常に優れています。そのため、ADHD(注意欠如・多動性障害)やLD(学習障害)のあるお子様と同様に、ワーキングメモリの低さによる日常生活での困り事があるにも関わらず、記憶力がとても良いと周りから評価されることが多いのです。
それではADHD(注意欠如・多動性障害)とLD(学習障害)のそれぞれの特性について詳しく説明していきます。
ADHD(注意欠如・多動性障害)について
ADHD(注意欠如・多動性障害)とは、集中力が続かない、落ち着きがない、順番が待てない、行動を抑制することができないなど、「不注意」「多動性」「衝動性」といった症状が見られることで、家庭や学校での生活に困難を有する発達障害のひとつです。
ADHDと診断されるお子様の割合は学童期では3〜7%であり、男児の方が女児より3〜5倍多いと言われています。症状の現れ方により、「不注意優勢型」「多動性・衝動性優勢型」「混合型」の3つのタイプに分類されます。ADHDのあるお子様は、忘れ物が多い、集中して授業を受けることができない、学校のルールを守って行動することが難しい、友達とトラブルになるなど、叱られてしまう場面が多いです。
しかしながら、これらはADHDの特性によるものであり、しつけや本人の努力不足が原因ではありません。ADHDの特性を理解したうえで、サポートしていくことが大切になります。周囲の理解が得られず、繰り返し叱られることで、自己肯定感が低くなり、心が傷つくことのないよう、注意が必要です。
「周囲の雑音により集中して話を聞くことができない」「指示されたことを忘れる」などのADHDの症状が、記憶に関する事柄が多いということから、ワーキングメモリの低さとADHDの関係が見えてくるでしょう。
LD(学習障害)について
LD(学習障害)とは、知的障害や視聴覚障害がなく、教育環境にも問題がないにも関わらず、読み・書き・計算などの能力に困難が生じる発達障害のひとつです。
就学前に気づかれることは少なく、小学校入学後の教科学習を開始するタイミングで学習における困難さに気がつき、診断を受ける場合が多いです。LDと診断されるお子様の割合は、学童期では5〜15%程度と言われています。また、LDのあるお子様はADHDなど他の発達障害を併発していることもあります。
LDは、「読字障害」「書字表出障害」「算数障害」の3つのタイプに分類されます。これら3つのタイプに関しても、1つのみを発症することもあれば、併発して発症することもあります。
- 読字障害は、文字を読むことが困難で、読解力が著しく低いなどの特徴があります。
- 書字表出障害には、文字を書くことが困難で、鏡文字になってしまったり、マス目に文字を収めることが困難になるなどの特徴があります。
- 算数障害は、数字の概念がなかなか身につかないことで、計算や推論することが困難になるなどの特徴があります。
LDに関しても、本人の努力不足が原因ではないため、学習障害のあるお子様がどの分野で困難を伴っているのかを理解した上で、適切な支援をしていくことが大切です。
「文字や数字の形を正確に記憶・再生すること」「計算のくり上がりやくり下がりなどの手続きをすること」など、読み・書き・計算をする能力は記憶に関する事柄が多いということから、ワーキングメモリの低さとLDの関係が見えてくるでしょう。
記憶力を調べる方法
ここまで、発達障害と記憶力の関係性について説明してきました。そして、発達障害と「ワーキングメモリ」という作業記憶に関係性があることが分かりました。「ワーキングメモリ」を調べることができるのか知りたい方も多いと思いますので、調べ方について説明していきます。ワーキングメモリを調べる方法は、主に2つあります。1つはワーキングメモリ自体を調べる方法です。そして、もう1つは知能検査を行う方法です。
ワーキングメモリを調べる
ワーキングメモリ自体を調べるテストは、テスト項目が細かく分かれており、ワーキングメモリの中でも、どの項目が低いのか、より詳細な検査を行うことが可能です。日常生活での困り事に関して、ワーキングメモリの中の低い項目が分かることで、より良い支援ができるようになります。それでは、代表的なテストを2種類紹介します。
AWMA
正式名称をAutomated Working Memory Assessmentといい、イギリスのピアソン社が販売しているテストです。4つの構成要素をそれぞれ測定する3課題、合計12課題から構成される、コンピュータベース(パソコンを使って実施されるタイプ)のテストです。10分程度で実施できる利点があります。このテストを行うことで、ワーキングメモリに根本的な問題があるのか、特定の刺激の処理に問題があるのかを区別できるようになります。
HUCRoW
正式名称をHiroshima University Computer-based Rating of Working Memoryといい、フクロウと呼ばれています。広島大学大学院人間社会科学研究科教授の湯澤正通先生により開発されたテストです。パソコンやタブレットを使用して、ゲーム感覚でテストに取り組むことができます。小中学生向けのテストの所要時間は約90分で、一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会の公式サイトから個人での申し込み(有料)が可能です。ご自宅でテストを受けることができます。フクロウ(HUCRoW)には主に幼稚園の年長児向けの簡易版もあります。このテストを行うことで、言語能力に関わる「言語的短期記憶」「言語性ワーキングメモリ」、計算や図形の苦手さに関わる「視空間的短期記憶」「視空間性ワーキングメモリ」の4つの構成要素の得意不得意が分かるようになります。
知能検査を行う
上記のワーキングメモリの詳細を調べるテストの他にも、知能を測定する検査を行うことにより、発達のバランスを知ることで、発達障害のある方の得意・不得意を知る方法があります。ここでは、知能検査として70年以上の長い歴史を持つ、「ウェクスラー式知能検査」について説明していきます。
ウェクスラー式知能検査とは
ウェクスラー式知能検査とは、アメリカの心理学者であるWechsler,D(デイヴィッド・ウェクスラー)が開発した知能検査です。児童期や成人期において、日本で最もよく使われる知能検査のひとつです。病院や支援センターなどで、公認心理士などの専門家と1対1で検査を行います。改訂版には「ワーキングメモリ」の指標が取り入れられており、「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4種類の指標と、それらを合わせた総合的な指標(全検査IQ)により個人の特性を評価します。欠点として、フクロウ(HUCRoW)のような自宅で行う検査とは異なり、専門家と慣れない場所で1対1での検査を行うため、人見知りの方などは、普段の力を発揮できないことが挙げられます。また、ウェクスラー式知能検査の「ワーキングメモリ指標」は耳から入った情報を短時間記憶し、処理する能力(言語能力の記憶・処理能力)を測るものであり、目から入った情報の記憶・処理能力(視空間領域の記憶・処理能力)を測ることができないことも欠点として挙げられます。
ウェクスラー式知能検査は年齢に応じて種類が分けられています。以下に、
- 成人用の(16歳〜90歳11ヶ月)WAIS
- 児童用(5歳〜16歳11ヶ月)のWISC
の基本情報について説明します。
WAIS
【WAIS-IVの基本情報】
- 適用範囲:16歳〜90歳11ヶ月
- 受験条件:公的病院にて受験する場合は医師の推薦が必要
- 実施時間:60分〜90分
- 実施機関:医療機関(精神科)、民間のカウンセリングルームなど
- 検査費用:検査を受ける機関により異なる
- 保険適用の可否:保険適用あり
WISC
【WISC-IVの基本情報】
- 適用範囲:5歳〜16歳11ヶ月
- 実施時間:60分〜90分
- 実施機関:公的機関(支援センター、児童相談所)医療機関(児童精神科、小児科)民間のカウンセリングなど
- 検査費用:検査を受ける機関により異なる
- 保険適用の可否:保険適用あり
ワーキングメモリは鍛えることができます
記憶力の中でも発達障害に関わりの深い「ワーキングメモリ」ですが、適切なトレーニングや遊びにより、ワーキングメモリは向上します。脳の働き自体を向上させるためには、日常生活を健康的に楽しく過ごすことが大切です。
睡眠不足は脳の働きを弱めてしまうため、十分な睡眠が取れるよう、早寝早起きを習慣化させましょう。また身体を動かして遊ぶことは脳神経の発達に欠かせません。戸外遊びでは、五感をたくさん刺激することができますし、友だちと一緒に遊ぶことで、遊びを工夫したり、コミュニケーションを取ったりするため、ワーキングメモリの機能が高まっていきます。
また、記憶力を鍛えられるように、「ナンプレ」「神経衰弱」「かるた・百人一首」などのゲーム遊びを楽しむことも有効です。小さいお子様には、絵本の読み聞かせもおすすめです。なぜなら耳から入ってくる言葉と、目で見る絵本の挿絵を紐付ける作業を自然と行うことができ、ワーキングメモリが向上するからです。小学生以上のお子様の場合は、後出しじゃんけんなどの遊びも良いでしょう。後出しじゃんけんは目から入った情報を記憶し、次に何を出せば勝てるのか頭の中で考えるため、ワーキングメモリの向上につながります。
まとめ
ワーキングメモリ(作業記憶)と呼ばれる一時的に保持した記憶(短期記憶)を取捨選択し、処理する能力は、日常生活での困り事に大きく関わっています。発達障害のあるお子様は、ワーキングメモリが低いことで学校生活で様々な困難を抱えており、周囲の理解ある適切なサポートが必要です。発達障害のあるお子様にどのような特性があり、どのような困り事があるのかをしっかりと把握し、学校の先生や医療機関などとも協力しながら、お子様の困り事が軽減できるよう、ワーキングメモリの向上を目指しましょう。
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・複数の指示を覚えられない
・忘れ物、なくしものが多い
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「教科書準拠」だから学習成果に直結します
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